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インプラント治療におけるオールオンフォーの評価
1. はじめに
オールオンフォー(All-on-4)は、全顎的な歯の欠損に対するインプラント治療の一つであり、4本のインプラントを戦略的に配置することで、固定式のフルアーチ補綴物を支える手法です。1998年にポルトガルの歯科医師パウロ・マロ(Paulo Malo)によって開発され、特に無歯顎の患者様に対して効果的な治療法として広まっています。
従来のインプラント治療では、フルアーチの補綴物を支えるために6~8本のインプラントが必要とされていましたが、オールオンフォーは4本のインプラントのみで済むため、手術の侵襲を抑え、治療期間を短縮できる利点があります。本稿では、オールオンフォーの生存率や成功率などを学術的な観点から評価し、その有効性と課題について詳しく解説します。
2. オールオンフォーの特徴と治療プロトコル
2-1. インプラントの配置
オールオンフォーでは、前歯部に2本の垂直なインプラント、臼歯部に2本の後方へ傾斜させたインプラントを配置することで、少ない本数でも広範囲の補綴物を支えることが可能になります。傾斜インプラントは、上顎洞や下顎管を避けつつ、最大限の骨支持を得るための設計となっています。
2-2. 即時負荷の適用
オールオンフォーの大きな特長の一つは、即時負荷(immediate loading)が可能な点です。手術当日に仮歯を装着し、患者様がすぐに咀嚼機能を回復できるため、従来のインプラント治療よりも早期の機能回復が期待されます。
2-3. 従来の治療との比較
・従来の治療(6~8本のインプラント使用)
・より多くのインプラントを埋入するため、手術の侵襲が大きくなる
・上顎ではサイナスリフト(上顎洞挙上術)、下顎では骨移植が必要になることが多い
・治療期間が長くなる
・オールオンフォー
・4本のインプラントのみで対応可能
・骨移植が不要な場合が多い
・即時負荷により、治療期間の短縮が可能
3. オールオンフォーの生存率と成功率:学術的評価
3-1. 生存率の評価
オールオンフォーの生存率に関する複数の研究において、長期的な生存率は非常に高いことが報告されています。
主要な研究データ:
・Malo et al.(2011)の研究では、オールオンフォーのインプラント生存率は上顎で98.0%、下顎で98.2%と報告されました(5年間の追跡調査)
・Babbush et al.(2013)による研究では、10年間の生存率が95%とされており、従来のフルアーチインプラント治療と同等の成績を示しています。
・Agliardi et al.(2017)の研究では、オールオンフォーの3年間の生存率が97.6%であり、即時負荷を適用しても高い成功率を維持できることが示されました。
成功率と生存率の違い:
インプラントの生存率とは、インプラントが口腔内に残存し機能している割合を指します。一方、成功率とは、インプラントの周囲骨の吸収が少なく、患者様の満足度も高い状態を維持できている割合を指します。オールオンフォーは生存率が高いだけでなく、成功率も高く、患者様のQOL(生活の質)の向上に大きく貢献しています。
4. オールオンフォーの利点
4-1. 低侵襲で治療可能
従来のインプラント治療に比べ、埋入本数が少ないため、外科的侵襲が少なく、術後の腫れや痛みも軽減されます。また、骨移植を伴わないことが多いため、治療の適応範囲が広がります。
4-2. 治療期間の短縮
即時負荷により、手術当日から仮歯を装着できるため、患者様がすぐに食事や会話を楽しむことができます。
4-3. 経済的な負担が少ない
インプラントの本数が少ないため、従来の6~8本のフルアーチインプラント治療と比べてコストを抑えられる場合があります。
5. オールオンフォーの課題とリスク
5-1. インプラント周囲炎のリスク
長期的にインプラントを維持するためには、適切なメンテナンスが不可欠です。インプラント周囲炎が進行すると、骨吸収が進み、インプラントの脱落につながる可能性があります。
5-2. インプラントの破損や補綴の問題
4本のインプラントでフルアーチの補綴物を支えるため、補綴部への負担が大きくなります。そのため、咬合管理や補綴設計が重要となります。
5-3. 骨量が極端に少ない場合の適応制限
オールオンフォーは骨移植を回避する設計ですが、骨量が極端に少ない場合には適応が難しくなることがあります。その場合、骨造成手術(GBRなど)が必要となることもあります。
6. 結論
オールオンフォーは、全顎的な歯の欠損に対する治療法として高い成功率と生存率を示しており、特に従来のインプラント治療に比べて低侵襲で治療期間が短縮されるという利点があります。多くの研究において、5年間の生存率は95~98%と報告されており、適切なケース選択とメンテナンスを行えば、長期的な安定が期待できる治療法といえます。
しかしながら、インプラント周囲炎や補綴のトラブルといったリスクも伴うため、適切な術前診断、治療計画、術後のメンテナンスが不可欠です。患者様の状態やライフスタイルに合わせた最適な治療法を選択することが重要です。
オールオンフォーは、適切な管理のもとで行われれば、機能性と審美性を両立した優れた治療法であることが学術的にも証明されており、今後もその有用性がさらに高まることが期待されます。
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